近頃、ChatGPT、Google Bard、BingAI、Stable Diffusionなど、生成AIが注目を集め、認知度も上がってきています。これらのAIは、指示した内容に基づいた、文章や画像などを生成する事ができ、導入する個人や企業が増加している一方、使用方法間違うと、機密情報の漏洩や著作権違反といった問題が生じる可能性があります。
文化庁が公開している、著作権に関するテキストや資料から、生成AIを使った生成物の著作権に関して、気を付ける点を考えたいと思います。
今回は、そもそも「著作権」って何?という事を整理していきます。
※あくまで個人的考えや感想です。実際に生成AIを利用した生成物の利用は、ご自身で文化庁の資料、有識者の見解、過去の事例、判例等をご確認の上、自己責任で行う様にしてください。
▶️参考資料
そもそも「著作物」とは?
そもそも著作物とはどういったものなのだろう。という事で<著作権法の「著作物」の定義>を見てみましょう。
<著作権法の「著作物」の定義>(法第2条第1項第1号)
①思想または感情を
②創作的に
③表現したものであって、
④文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する物
上記図の様に、一つの作品の中にも、著作物性のある部分と、著作物性の無い部分に分けられます。「著作物性のある部分」は「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、書く術、美術又は音楽の範囲に属する物」と記載されており、あくまで「創作的に表現」している事が重要です。一方「著作物性の無い部分」に関しては「単なる事実の記載」「ありふれた表現」「表現でないアイデア(作風・画風)」などとなっており、「創作的に表現」されていない箇所は「著作物性の無い部分」と判断されます。
「著作権」の基本的な考え方として「著作者の権利」を守る事で「新たな創作活動」を促し「文化の発展」へ寄与するという物です。
「創作的表現」の権利を守りつつも、「表現でないアイデア(作風・画風)」を「著作物性の無い部分」とする事で、後発の表現者達の足枷にならない様にしているという事だと思います。
※著作権で保護するものは「表現」であり、アイデアを保護する物ではありません。アイデアを保護するものとして「特許権」があります。特許は一般的に技法、製法などの「技術」を保護する為の物です。しかしながら、文芸、学術、美術にまつわる物でも「表現」する為の特殊な「技術」が特許として出願される事もあります。
▶️参考 チームラボ「チームラボボール/teamLabBall」
https://www.teamlab.art/jp/w/teamlabball/
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0200
「著作権」とは
前項で「著作物」に関して、なんとなくどういった物かを整理しました。次はその「著作物」を保護する為の「著作権」とはどういう物かを整理していきます。
まず「著作者」の権利として他人が「無断で〇〇すること」を止めることが出来る権利であり、ざっくりと「著作者人格権」「著作権(財産権)」の2つに分ける事が出来ます。
著作者人格権
「著作者人格権」は「著作者の精神的利益を守るための権利」であり、著作者に専属する権利である為、譲渡はできない。
下記の様な権利が「著作者人格権」に属する。
◾️公表権
まだ公表されていない自分の著作物について、それを「公表するかしないかを決定できる権利」(無断で公表されない権利)のこと
◾️氏名表示権
自分の著作物を公表する時に、「著作者名を表示するかしないか」、表示する場合は「実名」か「変名(ペンネーム等)」か、などを決定出来る権利のこと
◾️同一性保持権
自分の著作物の内容や題号を、自分の意に反して無断で「改変(変更・切除等)」されない権利のこと
著作権(財産権)
「著作権(財産権)」は「著作者の財産的利益を守るための権利」であり、譲渡や相続する事ができる。
下記の様な権利が「著作権(財産権)」に属する。
◾️複製権
著作者に与えられた、最も基本的な権利であり、著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
※著作物の複製とは「手書き」「印刷」「写真撮影」「複写」「録音」「録画」「パソコンのハードディスクやサーバーへの蓄積」など、方法を問わず、著作物を再製(コピー)する事を指します
◾️上演権・演奏権
無断で著作物を公衆向けに「上演」や「演奏」されない権利であり、著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上演し、演奏する権利を専有する。
※録音・録画したデータを再生することも「直接見せる」という事象に該当します
◾️上映権
無断で著作物を、映写機等を用いて公衆向けに「上映」させない権利であり、著作者は、その著作物を公衆に上映する権利を専有する。
※上映とは映画の著作物に限らず、美術、言語、写真などをスクリーンやディスプレイ画面等に映し出す様な行為が該当します
◾️公衆送信権
無断で著作物を公衆向けに送信されない権利であり、著作者は公衆送信(自動公衆送信の場合は、送信可能化を含む)を行う権利を専有する。
※公衆送信
テレビ、ラジオ、有線放送の様な受信者がチャンネルを合わせる事で視聴出来る様になる放送
※自動公衆送信
インターネットの様に、受信者がアクセスした情報だけ手元に送信される様な送信形態。受信者がサーバー等に蓄積されているデータにアクセスしたタイミングで自動的に配信、送信される為「自動公衆送信」と呼ばれる。
※送信可能化
自動公衆送信の準備段階として、送信される状態に置く行為(アップロード等)
◾️公の伝達権
無断で公衆送信される著作物を、テレビなどの受信装置を使って公衆向けに伝達させない権利であり、著作者は公衆送信されるその著作物を公に伝達する権利を専有する。
※「公衆送信(テレビやインターネットで放送、配信されるものなど)」される著作物をディスプレイ等を用いて公衆に伝達するような行為等が該当します。
◾️口述権
無断で「言語の著作物」朗読などの方法により公衆に伝達されない権利であり、著作者は「言語の著作物」を公に口述する権利を専有する。
※「口述権」は小説等の「言語の著作物」のみを対象にしたものです。
◾️展示権
無断で「美術の著作物の原作品」又は「まだ発行されていない写真の著作物の原作品」を公に展示させない権利であり、著作者はその「美術の著作物の原作品」又は「まだ発行されていない写真の著作物の原作品」を公に展示する権利を専有する。
※「展示権」は「美術の著作物の原作品」と「未発行の写真の著作物の原作品」を対象としたものです。原作品とは、美術の著作物の場合、画家が創作した作品そのもの、写真の著作物の場合は、印画紙にプリントされたものを指します。
※通常、絵画が売買されても、売主から買主へ移転するのは「物」としての絵画の「所有権」だけであり「著作権」を譲渡するといった契約が行われない限り、買主が購入した絵画を無断で複製や公に展示などを行う事はできません。
◾️譲渡権
無断で「著作物の原作品」又は「複製物」の公衆向けの譲渡をさせない権利であり、著作者は「著作物の原作品」又は「複製物」の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。
※著作物の譲渡は、他社へ販売などの方法で渡すこと
※一度、適法に譲渡された著作物に関しては譲渡権は無くなる為、書店などで買った本やメディアの中古売買は譲渡権の侵害にはあたりません
※著作物の海賊版の作成・販売する事は、適法に著作物の譲渡が行われていない為、海賊版作成者ではない第三者が海賊版を販売しようとしても、差し止める事ができます
◾️貸与権
無断で著作物を「複製物の貸与」という方法によって、公衆に提供させない権利であり、著作者はその「複製物」の貸与により公衆に提供する権利を専有する。
◾️頒布権
無断で「映画の著作物(映画、アニメ、ビデオなどの録画されている動く影像)」の複製物を「譲渡」と「貸与」両方を対象とする頒布させない権利であり、著作者はその「映画の著作物」をその「複製物」により頒布する権利を専有する
※映画の著作物の場合に限り、「譲渡」と「貸与」の両方を対象とする「頒布権」が付与されており、この「頒布権」は非常に強力な権利で、適法に譲渡された後の再譲渡であっても権利が及ぶ
※公衆に提示する事を目的としない市販用ビデオ・DVDや家庭用ゲームソフトなどに関しては、一旦適法に譲渡された後、公衆に再譲渡することについては「頒布権」は消滅する
◾️二次的著作物の創作権(翻訳権、翻案権等)
無断で著作物を「翻訳」「編曲」「変形」「脚色」「映画化」などにより、創作的に「加工」し、「二次的著作物」を創作させない権利であり、著作者はその著作物を「翻訳」「編曲」「変形」「脚色」「映画化」し、その他「翻案」する権利を専有する
※原作者(著作者)の翻訳権の了解を得る事で、「二次的著作物」の創作を行う事ができる
※「二次的著作物」の著作権は「二次的著作物」を制作した著作者が保有する
◾️二次的著作物の利用権(二次的著作の利用に関する原著作者の権利)
無断で「二次的著作物」を第三者に利用させない権利であり、二次的著作物の原著作物の著作者は、当該「二次的著作物」に関して「当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類」の権利を専有する。
※「二次的著作物」を利用する場合、「二次的著作物」の著作者だけでなく「二次的著作物」の元となった原作の著作者の許諾も必要となる
公衆に公開する用途でなければ基本的に問題ない
長々と書きましたが、とりあえずは「公衆」に公開する様な用途でなければ著作権の侵害にはならない事がわかります。上記文中に何度も「公衆」や「公に」という記述がありますが、両方同じ意味として捉えて問題ありません。ただ、著作権法上の「公衆」「公」という意味は、少し複雑なので理解しておく必要があります。
著作権法上の「公衆」「公」には、「不特定の少数、または多数」「特定の多数」が該当します。
たとえ対象が1人であっても、誰でも利用できるサービスであれば「不特定の少数」となり「公衆」という扱いになります。
それ以外にも上記に記入した各権利にも例外があり、こんな場合は大丈夫。といった内容がいくつかあります。
今回は、生成AIを利用した生成物を利用するにあたり、まずは、著作権の概要を纏めてみました。次回は文化庁が公開しているセミナー資料「AIと著作権」から、著作権侵害の要件に関して内容を纏めていきます。
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